鵠の杜舎

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新しい時代の家のつくり方。

2017-05-30
>>この記事は前回からのつづきです。
「神様の喜ぶ日/棟上げまつり」からお読みください。

 

上棟式を数日後に控えた現場は、しとしと小雨。
大工さんたちが仕事をする音だけが響いて、静かです。

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皆さんとても集中してお仕事されていたので、現場監督の安藤さんと親方の小野さんをこっそりお呼びして、短いインタビューをさせてもらいました。

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左)親方の小野正さん、右)現場監督の安藤智弘さん。現場をまとめる二人は同い年。

 

これまでにない木造賃貸住宅

――工事は順調ですか?

小野:まあまあ、ですかね。ここしばらく雨が続いて、工事ができないのが大変でした。手前の2棟と奥の2棟は当初少し離れていたので、時期をずらして建てる予定だったんです。でも屋根でつなげることになったので、4棟いっぺんに建てることになりました。

 

――もうじき上棟式ですね。今どんな気持ちですか。

小野:ちょうど先週、棟が上がって今はホッとしていますね。これから梅雨も来るので、なるべく早く外部をふさぐことを考えています。

 

安藤:木造なので、水仕舞いを早くした方が、電気水道など内部の工事も楽だし躯体にもいい。親方には、そういう部分まで気を使って作業をしていただいていて、ありがたいですね。

――こういった木造住宅は、珍しいのでしょうか。

小野:これだけの規模の木造は、賃貸住宅ではかなり珍しい。ぼくも(手がけるのが)初めてで、本当にびっくりです。鉄骨の階段も特徴的ですし、玄関も木サッシになる予定です。贅沢だと思います。

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今回建つのは4棟・計13戸。棟の間を屋根でつないだことで、コモンスペースが人の集まる場に。

 

新しい時代の職人チーム

――親方はこの現場では最年長で43歳と聞きました。お若い親方ですよね。

小野:いえいえ。まあ、中堅ですかね。ぼくと現場監督は同い年なんです。

 

安藤:うちの社長(marukan社長の西山さん)が、“同世代でものづくりをしたい”という気持ちが強いんですよ。独り立ちした、腕に力を持っている人たちを集めて。

 

小野:この現場の職人は、わりと二代目が多いんです。お父さんがもともと左官屋さんをやっていたとか、お父さん同士が同級生だったりとか。そういう人たちが集まっているのも面白いところかもしれませんね。

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子どもたちに大人気のmarukanの木工ワークショップ。本格的な工具でものづくりを体験できる。

 

――子供の頃から、ものづくりの現場が身近だった人たちなんですね。私がこれまで見た現場では親方は60代・70代の方が多かったので、皆さんお若くて、びっくりしました。

安藤:昔の人には昔の人のやり方があって、今までの建築をつくってきてくれたので、それもすごく大事です。でも鵠ノ杜舎のように、これまでにない新しい建物が出てきた時に、僕らの世代が新しいやり方、時代にあったやり方を見つけていかなきゃならない。押し付けじゃなく、皆さんと一緒につくっていきたい。だからこそ今、一生懸命『湘南マイスター・ネットワーク』というチームをつくっているところなんです。

 

小野:会社や職能を超えてつながる、職人さんたちの先鋭チームです。もともとはmarukanの協力会社を核にして生まれたんですが、今後は(marukan以外の)別の企業からの依頼も、このチームで引き受けられるようにしていきたい。組織を超えて自分たちの腕をアピールすることで、強みを表現していくこともできる。

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テンション高めなピンクがmarukanの職人さんたちのトレードマーク。まわりの人も思わず笑顔に。

 

――バンドとか、ユニットみたいな感じですね。面白い…!

安藤:「湘南という地域をこの世代で盛り上げていきたい」という思いもあります。

 

小野:marukanの現場は「みんなの現場」。鵠ノ杜舎の現場も全員、お互いの顔が見えている。ぼくは叩く仕事(※建方:柱や梁を組み上げる職能)ですが、ぼくも含めてみんな、自分の専門や担当部分だけでなく、現場の管理や掃除も一緒にする。本当に「みんなでつくっている」という感じです。
たとえば他の職人さんも、本来はその仕事だけをやればいいけど、現場全体のことを気にかけてLINEで様子を送ってくれたり。それぞれの思いはありながらも、そういうスタンスが浸透していっているのを感じます。

 

ご近所さんもウェルカム!な現場

――西山社長の言っていた「みんなでつくる」ですね。「みんな」にはご近所さんも入りますか?

小野:ご近所さんへは、まず日々の挨拶から。いきなり無理に話そうとするのではなくて、朝、掃除しながら挨拶する。すると、だんだんと皆さん挨拶を返してくれるようになる。鵠ノ杜舎の現場は、すぐそばに幼稚園があって子どもたちが毎日お散歩で通るんですが、最近は向こうから挨拶してくれるようになりましたね。

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餅つきに遊びに来てくれた幼稚園の子どもたち。通園時には、興味津々で現場を覗き込む子も。

 

――今回の上棟式も、ご近所の皆さんはどなたでも来られるんですよね。

安藤:もちろん。チラシをご近所さんに配って、ぜひ来てください!とお知らせしています。

 

小野:もう少し建物が出来てくると気になって足を止める方も出てくると思うので、「どうぞ見ていってください」と伝えられるといいですね。そういう入口をつくれるといいな、と思っています。

 

――西山さんが、“現場で食べるごはんはおいしいから、ご近所さんはお弁当を持ってお昼を食べに来てもいい”と言っていました。お弁当を持って来てもいいんですか?

小野:もちろんどうぞ(笑)。現場事務所の中で食べていただいてもいいですよ!

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こんな現場事務所、見たことない!木の香りが気持ちいい室内。一枚板のテーブルも素敵です。

 

子どもを本気にする「ものづくり」

こんなお話を聞いてから、のぞんだ上棟式。現場での真面目で朴訥とした印象とは打って変わり(?)、子どもたちを笑わせたり、中心になって場を盛り上げていた小野さん。社長の西山さんもいつもふざけ…いえ、周囲を笑わせてくれますが、みんなで楽しくやろう!というオープンマインドがmarukanらしさなのかもしれません。

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西山:marukanのワークショップでは、子どもたちが本当に真剣なんですよね。本物の工具を持たせるから余計に。この前、保育園の卒園制作を頼まれて行ってきたんです。ノコギリを一緒に引くんですけど、子どもたちは全力だからこっちの指が危なくて、「ちょっちょっちょっちょっと力抜いてー!」って(笑)。

 

小野:でもやっぱり、目がすごい純粋なんですよ。

 

西山:その中のひとりの女の子が、ものづくりにハマっちゃったらしくて。園長先生から電話をもらって「山梨のものづくりの小学校に家族でお引越ししちゃった」って!湘南マイスター・ネットワークで、子ども向けの訓練校みたいなのがあっても面白いかもしれないね。

 

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左)小野さんと西山さん。右)安藤さん。違う役割のアンサンブルでいい現場を生み出す

 

一方、上棟式の最中ずーっと働きっぱなしだった現場監督の安藤さん。来場者の食事や飲み物は足りているかと気を配り、ワークショップで休む間もない職人さんのポケットに、そっとオニギリを差し入れる姿が印象的でした。

ご近所の皆さんも帰り、現場がようやく落ち着いた頃。テキパキと片付ける手は動かしたままで、こんな話を聞かせてくれました。

 

現場監督は、つなぐ仕事

安藤:現場監督がいなくても、職人さんがいれば家はできる。だって昔はいなかったんですよ。大工さんがいれば、家は出来ていた。じゃあ何のためにいるのか、ぼくたちの仕事って何なのか。

 

昔はなかったような新しい建物が増えている中で、お施主さん、設計者さん、大工さん、電気設備やなんかのいろんな職人さん、各業者さん。そのあいだの橋渡しをスムーズにするのが、ぼくらの仕事かなと。でも現場監督がいなくても、たぶん家は建ちます。だからこそ必要とされるように“みんなとつくっていく”という現場づくりを大切にしたい。間をちゃんとつないで、運んでいってあげるのが、ぼくらのいる価値になるのかな、と思います。

 

みんなでつくる。顔の見える関係性を大事にする。楽しさを大切にする。それはこれまでにない、新しい時代の家をつくるために、必要なことだったんですね。

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おまけ

インタビュー当日、丘の上で現場を眺めながらお弁当を食べてみました。崎陽軒といえばシウマイ弁当ですが、この横濱チャーハンもおすすめ。湘南方面へ下るなら、東海道線・横須賀線・京浜東北線などJR各線、京急線などいろいろな駅で買えます。結論:現場で食べるごはんは、たしかにおいしい!

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ご近所の猫がめっちゃ見てました。

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